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観測目標

活動銀河核

VSOP「はるか」で明らかにされてきた知見は、「センチ波帯における活動銀河核ジェットの物理、および核周物質の分布」とまとめることができます。
この成果を引き継いでVSOP-2で狙う課題は、「ミリ波帯における中心核の物理」が挙げられます。光学的に厚くコンパクトな中心核に迫るために、VSOP-2では「はるか」の10倍の分解能で観測します。

活動銀河核の模式図左図:活動銀河核の模式図

 
  1. 活動銀河核のエネルギー発生機構: 降着円盤とブラックホール

    活動銀河核が大きなパワーを発するしくみは、大質量ブラックホール周囲の降着円盤が重力エネルギーを解放するためだと考えられています。しかし降着円盤を直接撮像観測できた例はまだありません。
    降着円盤の観測には、高い空間分解能とともに高周波での観測が必要です。VSOP-2の性能において、降着円盤の撮像およびサイズの計測が期待されています。また、ブラックホール+降着円盤というモデルを検証するために、温度やサイズ・形状などの観測によって多様なモデルを切り分けます。さらに、ブラックホールのシルエットを撮像できる可能性もあります。
    観測対象として、例えばM87銀河には、太陽の10億乗もの質量を持つブラックホールがあると考えられています。VSOP-2では38マイクロ秒の分解能を実現し、降着円盤のサイズを求めることができると期待されています。
    またその近傍には、VSOP-2で観測可能と見られている天体が、少なくとも16天体存在します。

    ハッブル望遠鏡による電波銀河M87の写真 左図: ハッブル望遠鏡による電波銀河M87の写真。中心に回転するガス円盤が存在し、それと垂直の写真右上方向にジェットが伸びている。


     
  2. 活動銀河核への質量供給機構: サブパーセク領域

    シュバルツシルト半径の、10の3?5乗倍の領域(以下、サブパーセク領域と表記)には、降着円盤に流れる質量が分布しています。いわば「燃料庫」です。この領域の密度分布や速度場を測定することで、質量供給率という活動銀河にとって重要な手がかりが得られます。
    サブパーセク領域では、分子ガス・中性原子・プラズマという多相のガスが混在しています。このようなガスはどのように相変化して存在しているのか、VSOP-2では、この領域の詳細な構造を高い分解能で明らかにできると期待されます。
    さらに、メーザー源の固有運動を短い観測期間で検出できるので、ブラックホールの質量を力学的に求めたり、ガスの降着率を見積もることができます。

  3. 活動銀河核のジェット生成・加速機構
    回転するブラックホールが形成する磁場

    VSOPの観測などで活動銀河核のジェットの加速が明らかになってきましたが、その生成・加速機構については複数のモデルがあってまだ決着がついていません。
    これらのモデルに対して検証するには、ジェットの磁場形状やプラズマ組成などを観測的に明らかにして、モデルの予言と比較することが必要です。
    VSOP-2では、多周波偏波撮像観測を行うことによって、ジェットの三次元磁場構造を高い空間分解能で描き出すことが可能です。また多周波に渡って輝度温度を測定することで、ジェットのプラズマ組成を切り分けることができます。

    右図: 回転するブラックホールが形成する磁場をシミュレーションによって描いたもの。磁力線(赤)は螺旋状の形状となる。


  4. 降着円盤とジェットの共棲: 低光度活動銀河核の観測

    降着円盤はジェットの生成・加速に大きな役割を担っていると考えられますが、一方でジェットは降着円盤でのエネルギー生成にどのような役割を果たしているのでしょうか。
    降着円盤の形状と温度は理論の予測どおりか、ジェットは降着円盤のどの付近から生成されるのか、降着円盤がどんな状態になったときにジェットが生成されるか、磁場の役割は重要か、ジェット放出の方向と初速度は?――
    こういった疑問に対して、大規模ジェットに邪魔されない低光度活動銀河核を、VSOP-2の高分解能で観測することにより、新たな知見が得られます。
    これらの観測結果は、一般の活動銀河核やX線連星にも適用できる可能性が期待されています。

  5. ジェットの三次元磁場構造

    偏波観測によって偏波ベクトルなどを測定することで、ジェット内の三次元磁場構造について調べることができます。
    例えば、クェーサー3C273の磁場構造が「右ねじ螺旋構造」であることはすでにVLBAを用いた観測で得られていますが、VSOP-2では、さらに高空間分解能の構造が明らかにされると期待されています。

    VSOP観測によるクェーサー3C 273 のジェット構造 左図:VSOP観測によるクェーサー3C 273 のジェット構造。ジェットの輝度が二重螺旋構造を示している。(赤と青の線)


     
  6. ジェットの組成

    ジェットの加速を考察する上で、プラズマ組成が通常の「電子?陽子」なのか、それより質量がずっと小さい「電子?陽電子」のペアプラズマなのかを知ることは重要です。陽子を加速するのは困難だからです。
    これまでに観測したジェットについては、ペアプラズマが優勢という結果が得られていますが、VSOP-2による多周波の高分解能観測・偏波観測によって、より多くのジェットについてプラズマ組成を明らかにできると期待されています。

  7. ジェットのパワーを何が決めるか?: 弱電波クェーサーのジェット

    クェーサーの電波放射の規模による分布は、いわば電波の強いもの(Radio-Loud Quasar:RLQ)と弱いもの(Radio-Quiet Quasar:RQQ)に二分されると信じられてきました。しかし、最近の高感度電波観測によって、連続的に分布することが確認されつつあります。
    クェーサーのジェットのパワーを何が決めているのかを知るには、様々なクェーサーについて、ジェットの生成・加速領域の構造を詳細に調べる必要があります。クェーサーの90%以上は電波の密度が暗く、VSOPでは観測できませんでした。しかしVSOP-2の感度であれば、これらも高分解能で撮像できます。
    全光度が大きくてジェットが弱いクェーサーは、全光度が小さいにもかかわらずジェットが明るい電波銀河とは対照的な天体です。クェーサーのジェットの加速を妨げると考えられる要因(光度の大きい降着円盤からの放射、ダストトーラスからの放射、宇宙初期における宇宙背景放射などの光子源)を、ミリ波のスペクトルを調べることで、これらへの理解が得られると期待されます。